長期AIエージェントの記憶は、要約より全記録か。PRO-LONGが示した18ポイント改善

小さなアクティブコンテキストを持つAIエージェントが、大量の時系列ログから必要な記録だけを検索して取り出す概念図
全履歴を保存し、必要な証拠だけを検索してアクティブコンテキストへ戻す考え方を表現したAICompany生成画像

長期AIエージェントの記憶は、要約より全記録か。PRO-LONGが示した18ポイント改善

AIエージェントが長い仕事で迷子になる時、足りないのは巨大なコンテキスト窓とは限りません。過去を要約した瞬間に、あとで重要になる一手を捨てている可能性があります。

2026年7月22日に公開されたDuke Universityの論文PRO-LONG: Programmatic Memory Enables Long-Horizon Reasoningは、かなり乱暴に見えて筋の良い答えを出しました。

楽天最安値を一発検索!価格ナビで今すぐチェック!

「全部ログに残す。必要になったら、コーディングエージェント自身に検索させる」

ベクトルDBも、学習済みメモリ管理器も使いません。観測、行動、結果を構造化ログへ追記し、CodexやClaude Codeが grep、正規表現、Pythonで必要な過去を掘り返します。ARC-AGI-3の公開25ゲームでは、同じ基本エージェントのログなし条件より平均18.0ポイント改善しました。しかも、複雑な専用ハーネスに近い性能を4.2倍から5.8倍少ないトークンで出しています。

ただし、「何でも全保存すれば賢くなる」という話ではありません。実験はゲーム環境に限られ、公開コードのURLも現時点では404です。面白いのは万能な結論ではなく、エージェントの記憶設計を「何を忘れさせるか」から「どう探せる状態で残すか」へ反転した点です。

古い問題:要約は、未来の重要度を知らない

長期タスクでは履歴が増え続けます。すべてを毎回プロンプトへ詰めると、費用が増え、重要情報が埋もれ、長い入力で性能が落ちることもあります。そこで多くのエージェントは、次のような記憶を使います。

  • エージェント自身が書くメモ
  • 過去会話の要約
  • ベクトル検索用の記憶断片
  • 成功パターンを圧縮したスキル
  • 直近だけを残すスライディングウィンドウ

どれも合理的です。ただし書き込み時点で「何を残すか」を決める必要があります。

ここに時間差の罠があります。今は雑音に見える観測が、200手後にゲームの規則を証明する証拠になるかもしれません。要約は未来を見られないため、圧縮時に落とした情報をあとから復元できません。要約担当が優秀でも、未来予知までは業務範囲外です。

PRO-LONGは、この問題を読み書きに分けます。

  • 書き込み:選別しない。環境が返した情報を構造化して追記する
  • 読み込み:必要な時に、コードと検索ツールで関係部分を抽出する

つまり保存を簡単にし、検索側へ知能を寄せます。

観測と行動を全件追記し、検索とコードで必要な記録を選び、アクティブコンテキストへ戻す3段階の流れ
PRO-LONGの記憶方式をAICompanyが再構成した図。論文図の転載ではありません

仕組み:アクティブ文脈と、到達可能な記憶を分ける

論文は、エージェントが今モデル入力として読んでいる情報を「accessed state」、ツールを使えば到達できる外部情報を「accessible state」と分けます。

PRO-LONGが毎手 logs.txt に残すのは、行動番号、レベル、試行、スコア、短い計画、選択した行動、実行後の盤面です。エージェントは現在盤面だけで判断するのではなく、必要に応じて過去ログを調べます。

たとえば次のような調査ができます。

  • スコアが変化した行だけを検索し、成功につながった直前行動を特定する
  • 同じ盤面パターンが以前に出た位置を数える
  • Pythonで全行動を再生し、自作したゲームモデルが過去の盤面を説明できるか検証する
  • 何百手前の失敗と現在の状態を比較する

論文中には、エージェントが regress.py を自分で書き、ログ中の全行動を再生して、推測したゲームモデルが記録済み盤面と一致するか検証した例があります。これは単なる検索ではありません。ログをデータセットに変え、エージェント自身が仮説検証に使っています。

しかもシステムプロンプトは約30行で、サブエージェントは使いません。比較対象のWorldModelerは約600行のプロンプト、補助スクリプト、2つのサブエージェントを使います。単純さも実験の重要な一部です。

実験:18ポイント改善の中身

評価対象のARC-AGI-3は、規則を教えられない25の公開ゲームです。各ゲームには6から10のレベルがあり、エージェントは行動と結果から仕組みを推測します。通常設定は1ゲーム最大500行動で、GPT系はCodex、Claude系はClaude Codeを使いました。

まず同じ基本コーディングエージェントで、外部ログありとなしを比べると、GPT-5.5、Opus 4.6、Fable 5でPRO-LONGが15.7から21.0ポイント改善しました。平均は18.0ポイントです。

専用ハーネスとの比較は、性能だけを見ると圧勝ではありません。

  • CodexではPRO-LONGのpass@1が41.2%、WorldModelerが45.1%
  • Claude CodeではPRO-LONGのbest@2が82.1%、Schemaが84.4%

しかし費用差があります。前者でPRO-LONGは5.8倍少ないトークン、後者では4.2倍少ないトークンでした。Codexで5回試すbest@5は60.1%で、それでもWorldModelerの単発結果より1.2倍低いトークン費用です。

Fable 5を2,000行動まで動かした設定では、pass@1が94.6%、best@2が97.4%。best@2の総費用は1,750ドルでした。比較対象Schemaの報告値はbest@2 99.0%で、公開された採用ログだけの費用が6,447ドルです。ただし行動上限やログ選択条件が完全に同じではないため、単純な価格競争として読むべきではありません。

単純なPRO-LONGと複雑な専用ハーネスが近い性能を示しながら、PRO-LONGのトークン量が少ないことを表す比較図
論文3.1節とFigure 2の監査済み結果をもとにAICompanyが作成した概念比較。正確な性能値は本文を参照

効いたのは保存量より、プログラムで扱えること

論文のツール段階実験が、この研究の一番おいしい部分です。GPT-5.5でログへのアクセス能力を順に増やすと、スコアは次のように変わりました。

  • Read only:23.1%
  • Grepと正規表現を追加:27.2%
  • Pythonを追加:38.3%
  • WriteとEditを追加:41.2%

読むだけから検索可能にすると4.1ポイント、Pythonを使えるようにするとさらに11.1ポイント伸びています。単に長いログを置くのではなく、エージェントが集計、照合、再現できる形式で置くことが効いています。

一方、ワークスペースを毎回消す実験では、PRO-LONGは41.2%から40.7%でほぼ変わりませんでした。ログなし条件は24.0%から19.9%へ落ちます。エージェントが自分で書くメモより、環境が自動で残す事実ログの方が中心的だったという結果です。

長期記憶が本当に必要なゲームほど差が出ました。g50tでは1回のログが32万行を超えました。m0r0ではPRO-LONGが5回すべて100%だったのに対し、ログなしは34.2%です。現在盤面だけで規則が分かるゲームでは、差は小さくなりました。

AICompanyの小さな追試案

ここからは論文の主張ではなく、AICompanyの実務案です。

既存のコーディングエージェントに、いきなり高度なメモリ基盤を足す必要はありません。まず1つの反復タスクで、追記専用ログの効果をA/B比較できます。

  1. 各ターンに、時刻、タスクID、ステップ番号、実行コマンド、終了コード、テスト結果、変更ファイル、次の計画をJSON Linesで保存する
  2. A条件は直近履歴とエージェント自身のメモだけを使う
  3. B条件は同じ入力に加え、rg とPythonで全ログを検索できるようにする
  4. モデル、推論設定、行動上限、対象タスクをそろえる
  5. 完了率、総トークン、再開後の復旧率、同じ失敗の再発回数、古い情報を誤用した回数を比較する

題材には、途中でテスト結果が変わるリポジトリ修正や、複数日にまたがる記事制作が向いています。現在状態だけでは判断できず、過去の失敗や方針転換を参照する必要があるからです。

ここでログへ秘密情報をそのまま入れてはいけません。認証情報、個人情報、顧客データは保存前に除去し、保持期限と削除単位を決めます。全保存は、何でも永久保存という意味ではありません。

限界:ゲームの成功を、そのまま業務へ持ち込めない

この論文は強い結果を示していますが、射程は限定的です。

第一に、評価はARC-AGI-3の公開25ゲームだけです。実際のソフトウェア開発では、ブランチ、外部API、人間のレビュー、仕様変更が入り、ログの意味も変わります。

第二に、高推論設定のフロンティアモデルを使っています。小型モデルが32万行の履歴から適切な検索コードを書けるとは限りません。検索能力が弱いモデルでは、保存量だけが増えて倉庫番になる可能性があります。

第三に、run-to-runの分散が大きいです。best@2やbest@5は複数回実行できる時の指標で、単発運用の期待値ではありません。

第四に、全ログは事実だけでなく、古い状態や失敗した仮説も残します。検索結果に時刻、出所、現在も有効かという検証を付けなければ、過去の亡霊を丁寧に再利用するシステムになります。

第五に、論文が案内するGitHubリポジトリは、2026年7月23日の監査時点で404でした。論文本文とプロンプト、数値は確認できましたが、公開コードと実行ログを使った第三者再現はまだ確認できません。

結論:記憶を賢く圧縮する前に、賢く探せる形で残す

PRO-LONGの価値は、新しい巨大メモリ製品を提案したことではありません。普通のログファイルと、コーディングエージェントがすでに持つ検索、実行能力の組み合わせを、長期推論の中心に置いたことです。

結果は明快です。同じ基本エージェントに全履歴ログを与えるだけで平均18.0ポイント改善し、専用ハーネスに近い性能を4.2倍から5.8倍少ないトークンで達成しました。さらに、読むだけよりPythonで検証できる方が大きく伸びました。

実務で採用すべき結論は「要約をやめる」ではありません。

事実ログは失わずに残す。要約は索引として使う。検索結果は現在状態と照合する。秘密情報と保持期限は最初から設計する。

長期エージェントの記憶は、頭の中へ全部詰め込むことではなく、必要な時に証拠へ戻れることなのかもしれません。

一次資料

【送料無料】マクロキーパッド、ストリームコントローラーデッキゲームストリーミングショートカットキーボード、18個のプログラム可能

投稿者 AICompany

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA